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光がまわる 空間が広がる  建築家が設計した家に住んで 39

<室内 2001年4月号記事>
取材・文=鈴木里子氏


「限りある敷地の中でどれだけ豊かな場所をつくることが出来るか
目に見える広さだけでなく、光をうまくとり入れるとどうなるか

土間のある家

 部屋を細かく仕切らず、ひとつの大きな部屋にする。そこをどう使うかをあいまいにすることで用途が広がり、空間も魅力が増す。○LDKとは対極にある考え方で設計した住宅が、最近増えている。しかしそこで何をするかは住む人によって異なり、魅力ある空間をどこまで活かしきれるかも変わってくる。今回の、荒木毅さんが設計した「土間のある家」も、空間をあいまいに仕切ったプランである。果たしてその魅力はどこまでいきているだろう。

気付くと誰かが

 この家が建っているのは東京都板橋区。古くからの住宅街で、そばを環状7号線と中山道が交差している。路地を入ると小さな家が建て込んでいて、下町の雰囲気が残っている。建主は山丸雅昭さん。妻の真理子さん、長女で大学生の菜々子さん、長男で4月から高校生になる拓郎さんの4人が暮らしている。雅昭さんはグラフィックデザイナーなのだが、15年ほど前から趣味で陶芸を始めて、いまでは家に電気窯を設置し、教室も開いている。 

1階の玄関のまわりはガラス張りなので、外から室内の様子がよく見える。ここから見える土間で、雅昭さんが陶芸をしたり、教室を開いたり、また、自転車の修理をしたり、さまざまなことをしている。外からガラス越しに、近所の人がのぞいていることがしばしばあって、そのまま入って来て話をすることもあるという。ガラス越しに見える所がキッチンやダイニングなど、山丸さん達の日常生活が見えるような場所だったらそうはならないはずで、あまり生々しくないからこそ、立ち止まってのぞけるのだろう。 

土間の奥には3畳ほどの和室があって、ここは雅昭さんと真理子さんの寝室である。そして軽やかな螺旋階段を昇ると、そこは居間であり、キッチンと食堂でもある、広々とした部屋がある。菜々子さんと拓郎さんの部屋はそれぞれ3畳ほど。ロフト式で上で寝られるようになっているとはいえ、個室は実にコンパクトである。また、1階の和室にしても2階の子供室にしても、はっきりと扉で仕切らずに、3枚の引戸で仕切っている。2枚ではなく3枚にすることで、しっかり閉じる状態ではない、「ゆるく」閉じている状態をつくっているのだ。ちなみに台所も来客時には引戸で仕切れるようにしてあり、その戸も3枚である。

どちらもあればいいけれど

 山丸さんが荒木さんに出した希望は「広い空間が欲しい、そして多目的に使える場所が欲しい」というもの。荒木さんは土間をつくるのはこの家が初めてだったが、土間をコンクリートの床だと考えれば、1階にも2階にも居間がある住宅と捉えられるのでは、と山丸さんに提案した。夫婦にとっては、漠然と考えていたことが、荒木さんによってはっきり形になって示されたので、その後の打合せはとてもスムーズだったという。「模型などで具体的なプレゼンテーションをするまで、何回か山丸さんご夫婦とお会いして、よくお酒飲んだんですよね。その時に話をしていると、共通した考えをたくさんもっているということが、だんんだんわかってきて」と荒木さん。その共通の部分がこのような空間をつくりだしたのだろう。 

この家の敷地面積は約70m2。「充分な広さがあるのだったら、個室だって広い方がいいに決まっています。でもないのだからどちらかはあきらめないといけないでしょう?」真理子さんはそう言う。そのことは頭ではわかっていても、個室をどこまで狭くできるか、そこで潔い判断を下すのには勇気がいるものだ。その潔さを持てたことで、「はっきりと広さを感じられて、いろいろなことが出来る場所」をつくることが出来たのだ。

光がまわり、空間が広がる

 この家は角地だが、あたりは密集した住宅地で、ここも二方は一戸建ての平屋とアパートがすぐそばに建っている。荒木さんはそういった近隣との関係を配慮しつつ、いかに内部空間を豊かに出来るかを綿密に考えたという。それには光をどのようにとりこむかが大事だと、荒木さんは検討を重ねた。 

光をとり入れるということは、単に開口部をたくさんとればいいということではない。荒木さんは独立して自分の事務所を構える前に、主にヨーロッパを旅行して、たくさんの建築を自分の目で見てきた。その時に小さな教会堂などを訪れて、はじめは暗く感じるのに、その場にしばらくいるとふわーっと明るくなって来るという体験をして、建築の魅力を確認するきっかけになったという。住宅の場合、暗さというのには限度があるけれども、そのバランスはいつも考えているそうである。この家では、西側は景色が広がって見えるので開口を大きくとる、南側は強い光を遮るためにあえて大きな開口はとらないなどの工夫をしている。また平屋のお隣に面したキッチン部分は、そこに視線は行かないように、だけど空は見えるようにピクチャーウィンドウにしている。「自分が『こうしたい』と考えている部分の、いいところがこの住宅にはたくさん出ていると思うんです。だからでしょうね、来るたびに『いい家だな』って思いますよ」と荒木さん。 

話しを聞いた2階の居間には、見事なまでにものがない。きれいに整頓されている上に、家電製品なども収納にスッキリと納まっているからだろう。1階の土間には真理子さんのお祖母さんやひいお祖母さんがお嫁に来るときに持ってきたという、年代ものの箪笥や、古道具屋から格安で買った炬燵など、さまざまな時代を経てきた家具が調和している。 

子供達は自分たちのプライバシーがないって文句入ったりしますけど、そう言いながら引戸はいつも開けっぱなしなんですよと、雅昭さんと真理子さんが説明してくれた。こうしておけばよかったと思うことってありますか、そう聞くと、雅昭さんが「細かいことを言えば、たとえば2階のラワンベニヤは、表情はいいんだけれどもやっぱり傷が付きやすい。そういうことはありますけれども、でも満足の方が勝つので気になりません」と答えてくれ、そして真理子さんが「私はね、全然気にならないんです。性格でしょうね。住み始めたその日から何の抵抗も違和感もなくって、もちろん満足しています」とつないでくれた。家族と暮らしと住宅がこのように合っている、それがこの先どのようにさらに成長するのか、楽しみである。




◆室内と言う雑誌の2001年4月号の「建築家が設計した家に住んで」という連載に、土間のある家が紹介されたときの記事です。





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