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家づくりを楽しむ
<My Happiest Time #54 荒木毅の場合>

 子供の頃、テレビから「おーきく膨らむー夢・夢・夢ー かがーやく朝の窓 光・光・光ー 誰でもがー願ってるー、明るーい住まい セキスーイハウスー」と流れてくる歌がとても好きでした。モダンな生活のイメージが漂ってきます。両親と暮らす都市的な住宅へのあこがれがほのかにあったのでしょう。

 ハウスメーカーといえば、もともとは工場生産の高性能住宅を売りにしていて、大工さんのつくる建売住宅に対抗していました。その頃のプレファブは、合理的だけどぺこぺこしていてちょっと安っぽい感じがたまらなく良かったのですが、その後、和風やヨーロッパ風やモダン風などといった、素人にも分かるイメージを形にして、ちょっと豪華に見える箱に変化していきました。思えばハウスメーカーの住宅ほど、目まぐるしく変わる時代を反映しているものも無いかも知れません。地震が起きれば耐震を、シックハウスが問題になれば健康を高らかに唱いあげていきます。とはいえ、日本の住宅の圧倒的多数は、大工さんによる、建売や注文住宅と呼ばれる家でしょう。これは日本の津々浦々、いろいろなヴァリエーションを生みながら、その数の多さで日本の風景を圧倒しています。間取りは2LDKに玄関ポーチと和室のついた平凡なものが多いのですが、そこで育ってきた私たちにはとても馴染み深いものでもあります。

 これら建売・注文住宅とハウスメーカーの住宅を合わせると、日本の住宅の99%くらいになるのだそうです。で、あとの1%は何かというと、設計事務所が設計・監理してつくっている家で、住宅系「作家」の設計する家もその一部に含まれます。意外なことに住宅の得意な設計事務所というのは、数多い設計事務所のごく一部のようで、某有名住宅作家によれば、東京に100人、大阪に10人くらいしかいないだろうとのことです。

 「住宅」は建築の一分野であると私などは考えています。学校やホテルや事務所ビルなんかと比べるととても小規模ですが、その内には他の分野にひけを取らない内容が盛り込まれていることも多いものです。光を巧みに利用した空間やその連続があり、生活を包み込むしっかりとした構成があり、活動に適合した機能があり、空間を支えるシンプルかつダイナミックな構造があり、凛々しくも控えめな外形があります。日常生活という濃密な活動への配慮は、他の建築分野よりもかなり深い部分もあります。

 ところで、建売住宅などの家と住宅作家の家との違いを一言で表せば、「楽」か「楽しい(しんどい)」かではないかと思っています。例えばハウスメーカーの住宅では、営業マンが親切に対応してくれますし、品質や性能も数値で紹介され、工事予算も最初から弾き出してくれます。また、何と言っても母体が大きな会社ですから、安心してお任せしていれば直に手に入ります。どこか、お店に行って電化製品を選んだり、自家用車を買ったりするのに似ていますが、楽なのが何よりです。住宅系「作家」の設計した家はというと、ひとつひとつ異なる設計なので時間がかかりますが、こだわりたいところは深くこだわれますし、性能や形も自由ですから、楽しみながらつくって行きたい方には向いています。建築家との、設計から完成までの1年半にも及ぶ付き合いは、自分の家の事とはいえ、かなりのエネルギーを要するので、「しんどい」と思わないことがコツのようです。

 自由度が高いので、例えば性能なんか低くもできます。機密性を上げるより隙間風が抜ける家の方が、揮発性の化学物質が部屋にこもることもなく、良い面だってある訳ですから。何がその人にとって大切なのかは、人それぞれ違うものです。何を大切にして何は気にしないのかを取捨選択して、個人的な家をつくっていこうと言う訳です。全てに70点を取ることよりも、100点の部分と30点の部分が共存していても良いという考え方なんですね。




「世界の腕時計」(ワールドフォトプレス)という雑誌に書いたエッセーです。
NO.63 2003年5月16日発売号

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