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CLOSE UP

<新しい住まいの設計 97/11 ~今月の建築家CLOSE UP~> 取材・文 / 石井妙子氏

ゆったりとした居間に大きなテーブル。家族のくつろぎの場が家のかなめ

「素材の持ち味を生かした、優しい、素朴な空間」。これは荒木さんが手掛けた住宅に対して多くの人が抱く印象です。独立して7年、「自分だったらこんな家に住みたいなあ」というスタンスに立ち、建主の要求にフルにこたえながら設計した住宅には、どれも家族間のコミュニケーションを大切にした温もりが感じられます。 空間構成で最も重視しているのは、家族のくつろぎの場となるパブリックスペースの充足です。

「居間を広くとり、その中心に大きなテーブルを設置します。そこで家族が思い思いのことをしながら時間を共有する。この共通の場を大切にしたいですね」 その代わり、子供部屋などの個室は寝るだけの最小限のスペースで十分といいます。精神衛生上、一人になる時間も必要ですが、あまり充実させると、子供がそこに閉じこもる原因に。パブリックスペース重視の間取りは、家族間のコミュニケーションを円滑にするための智恵といえそうです。

さらに間仕切りも極力少なく。壁で仕切らずロールブラインドや屏風を活用して、必要な場合に随時仕切る。それを荒木さんは「あいまいに仕切る」と表現していますが、この手法は日本の伝統建築を踏襲したもの。田の字構造に代表される日本の伝統建築では建具の開閉ひとつで、大広間、中広間、個室と融通無碍に対応してきました。「ロールブラインドは昔の御簾に当たりますし、障子も屏風も古来使われてきたものばかり。これは日本の住宅建築の完成度が高いことの証明です。そこから強い影響を受けてはいますが、和風に偏り過ぎないように心掛けています」

厳しい敷地条件でも光あふれる豊かな空間づくりを目指して 

間仕切りの少ないシンプルな空間構成にすることは同時にまた、ローコストにもつながります。

「建主さんの大半が僕と同じ世代なので、ローコストは必須条件。ローコストを念頭に置きながら、そのつどコストに見合った材料と、材料の持ち味をそのまま生かす使い方を模索しています」

荒木さんが依頼を受ける住宅はコスト面のみならず、敷地条件なども厳しいものが少なくありません。本誌でこれまでにご紹介した実例でも、隣家が迫った住宅密集地で、さらに道路斜線の規制を受けた建物や、旗竿形敷地など、条件の悪いものばかり。さらに今月号のP161~165でご紹介しているのは16坪の敷地に建つ2世帯住宅。狭い敷地に家族が多く、要求も盛りだくさん。こうした厳しい条件下で、デザインのレベルを高めるのは難しいだけに、やりがいは十分。

数々の制約の中で快適空間に仕上げるには採光も重要なテーマになります。特に住宅密集地では、目と鼻の先に迫る隣家の視線をカットしながら、いかに光を取り込むかがポイントに。そこでハイサイドライトを効果的に設けるなどの工夫を。オープンな間取りにしているので家中に光が行き渡ります

「人の心を和ませる、光の表情を計算しながら空間をつくるんです。そうすれば自然と家族も一つに集まりますから」


◆1997年11月号の新しい住まいの設計(扶桑社)に掲載された記事です。

新しい住まいの設計(扶桑社)に掲載された記事
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