過去のコラム

建築家紹介:「コートハウス」

<SHIN CLUB #65/monthly architect 16/2005年8月号>

今月は、荒木毅さんの登場です。現在、辰では新宿区でRC住宅を施工中、まもなくお引渡です。

ー荒木さんの住宅にはCHシリーズがありますが、プロトタイプをめざしていらっしゃるのですか。

荒木:特に意図しているわけではないですが、狭い敷地や、廻りが密集して家が建て込んでいるという都市型住宅に与えられた条件を考えれば、「コートハウス」という選択はやはり一つ有効な回答だと考えています。

建てるときに南側に庭があって、敷地の北側に建物を配置するという、これまでのごく普通の方法では、都心の限られた敷地では庭先に隣の家の裏側部分があって見た目も悪いし、プライバシーも確保できないですよね。コートハウスにすることで、光も、より多く取り入れることが出来ます。

CHシリーズ 基本コンセプト
本体以外の躯体は平屋として、南北2棟配置するのが基本。
「南棟」は北勾配として軒を下げ、高窓を設けて、隣家に邪魔されること無く太陽光を取入れる。
「北棟」は2層として、「中庭」を介して十分太陽光を取込む。
「階段」は南から北に上る直階段として西方向からの太陽光の差込を邪魔しないようにする。
「東棟」は平屋として、東方向から中庭への太陽光の差込を邪魔しない。


CHシリーズとしているのは、ある程度の条件がこれらにあった場合、つまり共通のスタイルを持ったものについて、後から番号を与えているだけで、ゆるいプロトタイプといえるかもしれないですが、特に積極的に作ることを意図してはいません。

ー今どのくらいの件数ですか?

荒木:今10番まで来ているけど実現しなかったもの2つが欠番かな。

ー木造がほとんどですか。

荒木:そうですね。やはり、ローコストで建てたいというお客様は多いですから。

ーHPを拝見すると、「ある価値基準の編の目を通過していないと言うことは、未来を予見する様な希少な内容が存在する可能性も、そこにはあるのではないか」とありましたが、インターネットも積極的に利用なさっているようですね。

荒木:HPだけでなくブログもやっています。現場情報の更新や日記などで、タイトルは「今日の事務所」(笑)。そっちの方が人気あるかな。忙しいときはなかなか更新できないけどね。

僕の場合、ごく普通のご夫婦が建てたいという家の設計が多いですよ。僕の作品の掲載雑誌を見て、電話でご相談があってというパターンが多いですね。

ー最近は都心でデザイン性のある機能的な小さな住宅を提供する新しい動きがありますが、大きめの敷地を細分化することに対し、ただの「ミニ開発」という批判もあったりするじゃないですか。

荒木:狭小住宅といわれても都心ではしょうがないでしょうね。まとめて設計してゆければいいんですけどね。以前、世田谷の羽根木公園の近くで僕と2人の女性建築家、計3人の設計者でほぼ同時期に隣接する住宅を設計する機会があって、それぞれが建物の間の空間を意識し、光を反射する壁にして隣の家の採光に配慮したり、pavementや植栽を統一したりしたことがありました。なかなかそういう機会はないですけどね。

ー施工もまとまってくれると、コストが下げられるので、施工会社も仕事がしやすいという面がありますね。

荒木:小さな敷地というのも面白いものですよ。施主がもともと持っていた考え方を1度チャラにしてあげて、もっと一つの家族としてのあり方や場所を充実させることを提案する。そんなに大きな空間ではなく、適度な広さがあればいい。子供の個室は誰だってほしいけれど、そこで何をするのかをじっくり考えていけば、閉じこもるような部屋を用意するより、家族皆で過ごすこと、それぞれの気配が感じられる空間が効果的です。
ただ、設計する側としては40代後半になってきて、仕事の密度もだいぶ濃くなってきたせいで、何かとコストが上がりがちですね(笑)。快適さについても世間の要求レベルが高くなって、床暖房・ペアガラスは当たり前の世界になってきたから、予算内に収めるのが大変です。

ー事務所は女性スタッフが多いのですね。

荒木:今正社員4人中3人が女性です。長年勤めてくれていた槻岡佑三子が秋に独立して同じ事務所内にいます。女性は真面目で細やか、助かります。でもあまり女性に囲まれてもどうかと思いますので、今度男性を一人入所させました。

ー影響を受けた建築家の方はいらっしゃいますか。

荒木:やはり、事務所に勤めさせていただいた、アントニン・レーモンド氏でしょうね。(Antonin Raymond 1988-1976)戦後、日本で活躍したモダニストの一人で、本当に空間を知っている方だと思います。例えば、出窓一つにしても日本人の美意識じゃあり得ない考え方をされています。形式に陥っておらず、かといって装飾的でもなく、ある意味プリミティブな部分を残しているデザインなのです。日本人の傾向としてよくある、だんだんとモノが形骸化して薄っぺらくなったりする部分がないんですね。

それから、僕の親父も設計士だったものですから、絵が好き、美術好きという性格は子供の頃からのものですね。ただ、学校では数学や生物の方向も考えていたんですけどね。

ー事務所は早稲田にありますが、ご出身は北海道で、北大でいらっしゃいますね。

荒木:親元から飛び出したいという思いがあってー。それから大学の先輩がまだ一人もいない事務所に勤めたいとも思い、東京に出てきました。もう20年以上も前ですが

ー今後のご予定は?

荒木:そうですね、今回のようにたまにRC造をやると新鮮でいいですよ。木造の工務店さん、大工さんとの仕事は、だらだら続くというか、裁量を現場任せにすることも結構ありますが、今回辰さんとRC造の仕事をして、質疑応答などが細かくきちんとしているので感心しました。

それから、規模ももう少し大きいものをやってみたいですね。ローコスト住宅や狭小住宅を専門にしているわけではありませんからね(笑)。豪邸もやりたいですよ。

ーどうもありがとうございました。


◆「辰」という建設会社の社内誌に載った記事です。

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